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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
喜作はしばらくじっと眼を閉じて薄のそよぐ音に聴き入っている風であったが、小さく咳き込むと、感慨深げな眼を川に向けなから、再び口を開いた。
「幸いにも、偶然通りかかった旅の男が助けてくれたから生命を救われたが、あのときばかりは、いつも怒り散らしてばかりいる母親が気狂いのようにわしを抱きしめて泣いた。照れ臭かったが、正直嬉しくもあった。いつも妹ばかりを可愛がっている母親が自分のこともこんなに心配してくれているのだと判って、子ども心に妙に嬉しかった」
喜作は訥々と語った。それはお絹が初めて耳にする喜作の生い立ちであった。
「幸いにも、偶然通りかかった旅の男が助けてくれたから生命を救われたが、あのときばかりは、いつも怒り散らしてばかりいる母親が気狂いのようにわしを抱きしめて泣いた。照れ臭かったが、正直嬉しくもあった。いつも妹ばかりを可愛がっている母親が自分のこともこんなに心配してくれているのだと判って、子ども心に妙に嬉しかった」
喜作は訥々と語った。それはお絹が初めて耳にする喜作の生い立ちであった。