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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
喜作の母親はスメといい、早くに後家になった。それでも、子どもらのために再婚もせずに気丈に良人の残した田畑を守って慎ましく暮らしていたのだが、やはり女一人では不自由なことも多く、喜作が八つの歳に吾作という寡夫の許に後添いとして縁付いた。が、吾作は気難しい男で、スメが連れてきた喜作には冷淡で辛く当たった。妹のウメには優しかったが、何故か喜作には最初からよそよしかった。風当たりは母と吾作との間に弟が生まれると尚更烈しくなり、喜作はついに母の再婚先を飛び出した。それから喜作が目指したのが江戸の富平師匠の許であったというわけだ。
「母親がこの川で溺れて死にかけた俺を抱きしめて、狂ったように泣いたのは、丁度吾作の許に嫁に入る前の年のことだったな」
「母親がこの川で溺れて死にかけた俺を抱きしめて、狂ったように泣いたのは、丁度吾作の許に嫁に入る前の年のことだったな」