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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
喜作の眼差しは遠かった。当時のことを思い出しているのかもしれない。お絹はただ邪魔をせぬようにと、喜作の話に耳を傾けた。
「人づてに聞いた話では、吾作も長生きはせず、母親は幼い弟を抱えて、また苦労したらしい。妹が良きところに嫁いで幸せになったことだけがせめてもの救いだが、わしはつくづく親不孝者かもしれねえな」
もしかしたら―、と、お絹は思った。喜作には以前、妻子がいたが、流行病で相次いで失ったという。天涯孤独の喜作にとって、伊八は肉親のようなものなのかもしれない。伊八が喜作を慕うのと同様に、喜作もまた伊八を我が子のように思い、己れが本来血の繋がった人々に注ぐべき情のすべてを喜作に向けたのかもしれない。
「人づてに聞いた話では、吾作も長生きはせず、母親は幼い弟を抱えて、また苦労したらしい。妹が良きところに嫁いで幸せになったことだけがせめてもの救いだが、わしはつくづく親不孝者かもしれねえな」
もしかしたら―、と、お絹は思った。喜作には以前、妻子がいたが、流行病で相次いで失ったという。天涯孤独の喜作にとって、伊八は肉親のようなものなのかもしれない。伊八が喜作を慕うのと同様に、喜作もまた伊八を我が子のように思い、己れが本来血の繋がった人々に注ぐべき情のすべてを喜作に向けたのかもしれない。