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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
 物想いに耽っていると、喜作が照れたような笑みを刻んだ。
「つまらねえ昔話しをしちまったな。ま、こんな話はさっさと忘れてくんな。伊八にも話しはことはねえんだ。妙なことを言うようだが、お前さんといると、どうも調子が狂っちまう。話さねえでも良いようなことまで点ぺらぺらと喋っちまう―、何ていうか、心の隅っこにひた隠してることまで洗いざらいぶちまけちまいたいような気になるんだ。こんなことを言って、気を悪くしねえでくれよ」
 お絹はゆるりと首を振り、微笑んだ。
「同じことを、いつ蕎麦を食べにきて下さるお馴染みさんにも言われたことがあります」
―不思議だな。お絹ちゃんの店に来る愉しみは美味い蕎麦を食べるだけじゃねえんだ。お絹ちゃんに日頃、心に積もった憂さを聞いて貰いてえと思ったときに、俺はここに来てえと思うような気がするぜ。
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