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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
「でも、親方。折角ここまで来たのですから、川を渡って、村まで行ってみませんか。ご実家のあった場所を訪ねたり、妹さんにもお逢いできれば―」
 お絹がこれは真剣な面持ちで言うと、喜作は笑った。
「いや、ここで良い。噂では妹もまだ健在だとは聞くが、何せ、わしは六十年近くも前に故郷を自分から捨てた身だ。その間、ろくに便りも仕送りもよこさねえで、今更兄貴面ができるはずもねえ」
 たとえ口には出さずとも、喜作はこの機会を逃せば、二度と生きて故郷の地を踏むことは叶わぬとは判っているはずだ。喜作とは三つ違いだという妹とも生きて逢うことはできぬだろう。それを承知で、故郷を目前にしたこの場所で敢えて引き返すというからには、喜作にはそれだけの覚悟と想いがあるだろう。
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