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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
 穏やかに流れる川はどこか喜作にも似ていた。あるときは流れを速め、あるときは深みがあり―、人の生は川の流れを辿るのにも似ている。数奇な一生を辿ってきた、かつて江戸一の名人と呼ばれた男の背中には壮絶なまどの孤独と諦観、否、達観と呼べるものが奇妙なほど調和良く滲み出ていた。それは一つつの人生を己れの納得のゆくようにひたすら生き抜いてきた者、そして神の手による軌跡とまで人に言わしめたほどの技を持つ者だけが得ることのできるものであった。
 何ものをも呑み込んでもなお、穏やかに存在し続けている。この川の泰然とした佇まいは、まるで喜作のようだと、お絹は心の中で思った。
 大いなる川は、相も変わらず悠然と二人の前に横たわっている。
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