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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】 弐
でっぷりと太った女主人はいかにもしちめんどくさそうな様子で、まるで野良猫を追い払うようにけんもほろろに余分な寝具はないと突っぱねた。そのあまれのそっけなさに、滅多に他人の仕打ちに対して怒りを憶えないお絹でさえ、本気でムッとしたほどであった。
しかし、実のところ、その夜の泊やはそれほどに混雑を極めており、文字通り猫の手も借りたいほどの忙しさであったのである。それは、もしかしたら、この鄙びた田舎の小さな旅籠始まって以来、いや、最初で最後の繁盛ぶりかもしれなかった。
仕方なしに、お絹は空いている場所を喜作に譲り、自分は壁にもたれて眼を閉じた。しかし、そんな状態で眠れるはずもない。夜が更けるにつれて、空模様は次第に荒れてきた。風が強くなり、時には突風とも言えるほどの強さで吹き抜け、小さな宿屋を揺さぶった。
しかし、実のところ、その夜の泊やはそれほどに混雑を極めており、文字通り猫の手も借りたいほどの忙しさであったのである。それは、もしかしたら、この鄙びた田舎の小さな旅籠始まって以来、いや、最初で最後の繁盛ぶりかもしれなかった。
仕方なしに、お絹は空いている場所を喜作に譲り、自分は壁にもたれて眼を閉じた。しかし、そんな状態で眠れるはずもない。夜が更けるにつれて、空模様は次第に荒れてきた。風が強くなり、時には突風とも言えるほどの強さで吹き抜け、小さな宿屋を揺さぶった。