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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】  弐
「わしが川にはまったのも、こんな野分とも見紛うような、物凄い嵐の翌日でな。あの時、母親が怒ったのも至極当たり前のことだった。それでなくとも速い水の流れがいっそう速くなって、水はいつもと比べようもないほど多かった。本当なら、わしはとうに溺れ死んでいたはずだよ。ところが、子どもというのは、怒られても怒られても、川へと行くものらしい。物珍しさも手伝うのだろうがな、何人もの子どもが水の溢れそうになった川に近付いて亡くなった。助かったのは、わしだけかもしれねえ」
 喜作は昔を懐かしむように言うと、また眼を閉じた。
「心配することはねえ。明日には嘘のように雨も風も止む」
 その言葉を合図とするかのように、喜作は程なく低い寝息を立て始めた。
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