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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】  弐
 多分、それまでは眠っていなかったのだろう。お絹は喜作を起こさぬよう、それ以上話しかけることは控えた。
 喜作はこの川のほとりの村で生まれ育ち、誰よりもこの界隈のことを知る人間だ。そんな彼が言うからには、本当に心配は要らないのだろう。だが、現実として、たった今も物凄い風が無気味に吠えながら吹きすぎていったばかりとあれば、心配するなと言われても、それに従うのは至難の業のようである。
 それでも、お絹は喜作に倣って、そっと眼を閉じた。眼を閉じると、他の連中の不安に満ちたひそやかな喧噪がよりいっそう肌に突き刺さってくるような感じがする。それでも、やがて、浅い眠りが訪れ、お絹は旅の疲れからかいっときの微睡みに落ちた。
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