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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】 弐
あの烈しい風雨の中で、誰もが不安におののいていたというのに、たった一人、まるで周囲から隔絶されたような女がいた。お絹のからそれほど遠くない場所にいたので、記憶にもよく残っているのだ。喜作に余計な動揺を与えたくはなかっから、話さなかった。桔梗の花をかたどった簪を右手に握りしめ、一心に見つめていた女。その瞳はまるで何かに憑かれたようであった。女は年の頃は二十歳前後、けして派手やかさはないが、川原にそっひりと咲いていた女郎花を彷彿とさせるような、可憐さがあった。
だが、その思いつめた横顔には、拭い難い翳りと哀しみがあった。女はひたすら何かの物想いに耽っている様子で、部屋ょ時折揺るがす風のことなぞ一切眼中にはないようだった。
だが、その思いつめた横顔には、拭い難い翳りと哀しみがあった。女はひたすら何かの物想いに耽っている様子で、部屋ょ時折揺るがす風のことなぞ一切眼中にはないようだった。