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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】 弐
が、器量も良く心根も素直で働き者のお邦に想いを寄せる男は多かった。その中にこの村でも力を持つ庄屋の跡取り息子がいた。その息子の人柄もけして悪くはなく、お邦に対する想いも本物であったが、お邦は最後までその求婚に応じようとはしなかった。
「あたしから見たら、正直、勿体ないほどの良い縁談、玉の輿だと思ったけど」
女将は首をひねりながら言った。
お邦が選んだのは庄屋の倅ではなく、地位も金もない男―流れ者の五平だった。しかし、五平はそのことで、かえって自分がこの村にいることがお邦の幸せの妨げになると思い、ひそかに村を去っていった。五平は惚れた女のために自ら身を退いたのである。
五平はお邦がどれほど自分に焦がれているかを知らなかった。五平という恋人を失い、お邦はろくに食事も喉を通らぬ半病人の体になった。
「あたしから見たら、正直、勿体ないほどの良い縁談、玉の輿だと思ったけど」
女将は首をひねりながら言った。
お邦が選んだのは庄屋の倅ではなく、地位も金もない男―流れ者の五平だった。しかし、五平はそのことで、かえって自分がこの村にいることがお邦の幸せの妨げになると思い、ひそかに村を去っていった。五平は惚れた女のために自ら身を退いたのである。
五平はお邦がどれほど自分に焦がれているかを知らなかった。五平という恋人を失い、お邦はろくに食事も喉を通らぬ半病人の体になった。