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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】 弐
「あれほど朗らかでよく働く娘が一日中、家に閉じこもってばかりになっちまって」
お邦は日がな、自分の部屋に閉じこもり、五平がくれた、たった一つの物―、五平が泊やで働いて貯めた金で買ったという安物の簪をいつも握りしめていたという。まるで、それが男をしのぶたった一つのよすがであるかのように。
そんな状態が続いていたある日、お邦の様子を見かねた庄屋の息子が無理にでも屋敷にお邦を連れ帰ろうとした。それは邪な下心から出たというよりは、純粋にお邦を気遣っての行為だったが、そのせいで、お邦はふっと姿を消した。昨日はお邦がいなくなってから、丸一日が経っていた。
昨夜はあまりに忙しかったせいで、宿泊客の中にお邦が紛れ込んでいたのに、迂闊にも女将は気付かなかった。そして、今朝。
お邦は日がな、自分の部屋に閉じこもり、五平がくれた、たった一つの物―、五平が泊やで働いて貯めた金で買ったという安物の簪をいつも握りしめていたという。まるで、それが男をしのぶたった一つのよすがであるかのように。
そんな状態が続いていたある日、お邦の様子を見かねた庄屋の息子が無理にでも屋敷にお邦を連れ帰ろうとした。それは邪な下心から出たというよりは、純粋にお邦を気遣っての行為だったが、そのせいで、お邦はふっと姿を消した。昨日はお邦がいなくなってから、丸一日が経っていた。
昨夜はあまりに忙しかったせいで、宿泊客の中にお邦が紛れ込んでいたのに、迂闊にも女将は気付かなかった。そして、今朝。