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第15章 第六話　【対岸の恋人】　　弐

　お邦は偶然、増水した川の向こうに恋人を発見した。対岸の村に去った五平は、村長の屋敷に下男として住み込み、真面目に働いていた。丁度、見回りに来ていた男たちの中に五平の姿がかいま見えたのだ。娘のただ恋しい男、惚れた男に逢いたいという一途な心が娘を無謀とも言える行動に走らせた。
　女を突き動かしたのは，ただ、男を想うその恋情だけであった。
「お邦ちゃんの尋常でない様子から、その中に何かやらかすか、そのまま儚くなっちまうかのどちらかだと思ってましたけど、まさか、こんなことをするとはねえ」
　だが、その物言いは言葉に反して、お邦に対する温かい理解に溢れていた。