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凍える月~吉之助の恋~
第15章 第六話 【対岸の恋人】  弐
 その時、お絹の耳を打つ音があった。
 ふと我に返れば、対岸のお邦と五平がしっかりと抱き合う姿が映じた。その姿に川原にいた人々の間でいつ誰からともなく拍手が起こったのだ。
「人間、本気になれば、神業のような奇蹟だって起こせるものなんだってことを、あたしは今日、身をもって学びましたよ」
 女将は懐から取りだした手拭いでしきりに眼もとを押さえている。
 二人から少し離れた場所に立つ喜作もしきりに眼を瞬かせていた。
 秋の風が静かに川原を吹き抜け、川を渡ってゆく。薄が黄金色の穂をざわめかせ、可憐な女郎花の花がかすかに風に身を震わせた。
 対岸の恋人たちは、いつまでも抱き合ったまま、離れようとはしない。
 それを見つめるお絹の眼にも涙が知らず溢れた。



   (第六話【対岸の恋人】 了 )
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