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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
その出来事は突然、起こった。ある日の朝、お彩が長屋に帰ってくると、母が何やら忙しそうに荷物を拵えている。
お彩は母に問うてみた。
「おっかさん、これからどこかに行くの?」
母はお彩に向かって、やわらかな微笑を浮かべた。
「これから出かけようと思ってね」
刹那、幼いお彩の脳裡に嫌な予感がまるで風に流されてゆく秋の雲のように、ゆっくりと通り過ぎていった。
「そう言えば、向かいの大工の岩伍おじさんのところのおさよちゃんが最近、おとっつぁんとおっかさんが喧嘩ばかりするって心配してたわ。おさよちゃんのおっかさんは時々、もう岩伍おじさんとは離縁して、こんなおんぼろ長屋出ていってやるって、本当に箪笥を開けて家出の荷造りを始めるんですって」
お彩は母に問うてみた。
「おっかさん、これからどこかに行くの?」
母はお彩に向かって、やわらかな微笑を浮かべた。
「これから出かけようと思ってね」
刹那、幼いお彩の脳裡に嫌な予感がまるで風に流されてゆく秋の雲のように、ゆっくりと通り過ぎていった。
「そう言えば、向かいの大工の岩伍おじさんのところのおさよちゃんが最近、おとっつぁんとおっかさんが喧嘩ばかりするって心配してたわ。おさよちゃんのおっかさんは時々、もう岩伍おじさんとは離縁して、こんなおんぼろ長屋出ていってやるって、本当に箪笥を開けて家出の荷造りを始めるんですって」