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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
伊八はとりたてて迷信深いわけではないけれど、流石にお絹は真に神隠しにあったのではないかと思いそうになる。
だが、現実として、そんなことが起こり得るはずもない。心当たりはすべて探し尽くしてもなお露ほどの手がかりも掴めず、伊八は暗澹たる想いに陥った。
ある朝、伊八は喜作からの文(ふみ)を子どもから受け取った。十歳ほどのやんちゃそうな男の子は喜作の斜向かいに住む油屋の倅だという。喜作から頼まれたと言い文を手渡され、伊八は何げなくそれを開いた。
文をひととおり呼んだ伊八の顔は蒼かった。取るものも取りあえず喜作の家に駆けつける。喜作の住まいは町中にある小さな仕舞屋だ。見かけによらず庭いじり、花を丹精するのが趣味という喜作はもう二十年近くも前に女房を失って以来、ずっと独り身を通してきた。
だが、現実として、そんなことが起こり得るはずもない。心当たりはすべて探し尽くしてもなお露ほどの手がかりも掴めず、伊八は暗澹たる想いに陥った。
ある朝、伊八は喜作からの文(ふみ)を子どもから受け取った。十歳ほどのやんちゃそうな男の子は喜作の斜向かいに住む油屋の倅だという。喜作から頼まれたと言い文を手渡され、伊八は何げなくそれを開いた。
文をひととおり呼んだ伊八の顔は蒼かった。取るものも取りあえず喜作の家に駆けつける。喜作の住まいは町中にある小さな仕舞屋だ。見かけによらず庭いじり、花を丹精するのが趣味という喜作はもう二十年近くも前に女房を失って以来、ずっと独り身を通してきた。