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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
母が何事か厄介事に首を突っ込みたがる度に父は「しようのない奴だ」と口ではさも迷惑そうにぼやきながらも、他人のために奔走する母を温かなまなざしで見つめているのだ。
ゆえに、父母の仲睦まじいのは年端のゆかぬお彩だとて判ったが、だからといって、自分の両親が世の常の多くの親のようにけして夫婦喧嘩をしたり、夫婦別れしたりしないとは言えない(一体、お彩はこの二人が夫婦喧嘩をしているところなぞ一度も眼にしたことがないのだ。いや、喧嘩どころか父が母に向かって声を荒げたことさえないのではないか。母はよく「うちの人はお彩を甘やかしすぎる」と零しているけれど、お彩から見れば父の方がよほど母に甘いと思う)。
ゆえに、父母の仲睦まじいのは年端のゆかぬお彩だとて判ったが、だからといって、自分の両親が世の常の多くの親のようにけして夫婦喧嘩をしたり、夫婦別れしたりしないとは言えない(一体、お彩はこの二人が夫婦喧嘩をしているところなぞ一度も眼にしたことがないのだ。いや、喧嘩どころか父が母に向かって声を荒げたことさえないのではないか。母はよく「うちの人はお彩を甘やかしすぎる」と零しているけれど、お彩から見れば父の方がよほど母に甘いと思う)。