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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
だから、向かいの岩伍と女房のお苑が派手な夫婦喧嘩をやらかし、結果、お彩の親友であるおさよが泣きながら両親が離縁するかもしれないと、お彩に訴えたことで、お彩が母お絹の突然の荷造りについてあらぬ懸念を抱いたからといって、いちがいに早合点だと決めつけることはできなかった。
利発で年よりはよほど大人びているとはいえ、所詮、お彩は四歳の童女なのだから。が、この時、都合よく(と言うべきかどうかは定かではないが)、伊八は丁度、留守であった。親方の喜作がこの頃、とみに脚腰の痛みを感じるようになったので、親方を連れて、近在の温泉宿に三泊四日の予定で出かけているのだ。元々、伊八は江戸近在の小さな村の百姓の倅であった。呑んだくれの実父にほとほと嫌気がさし、実家を飛び出し単身江戸に出てきたという経緯がある。
利発で年よりはよほど大人びているとはいえ、所詮、お彩は四歳の童女なのだから。が、この時、都合よく(と言うべきかどうかは定かではないが)、伊八は丁度、留守であった。親方の喜作がこの頃、とみに脚腰の痛みを感じるようになったので、親方を連れて、近在の温泉宿に三泊四日の予定で出かけているのだ。元々、伊八は江戸近在の小さな村の百姓の倅であった。呑んだくれの実父にほとほと嫌気がさし、実家を飛び出し単身江戸に出てきたという経緯がある。