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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
その喜作の持病の腰痛が今年の春先から悪化、伊八は父とも敬愛する喜作を自ら温泉旅行に伴った。そこはあまり名前こそ知られてはいないけれど、神経痛に効くということでは定評があった。伊八は今朝早く、喜作を伴って温泉地に向けて発ったばかりだ。
その父の留守にいきなり思い出したように荷造りを始めるなぞ、お彩が妙な誤解を抱いたとしても致し方のないことではあった。
現に、母は四畳半の片隅にちんまりと置いてある小さな箪笥から旅に必要と思われる品々を手際よく取り出している。それらを二つに分けてまとめると、お彩をつと振り返った。
「さて、私たちもそろそろ行こうとするかね」
突然の言葉に、一部始終を茫然と眺めていたお彩は息を呑んだ。とうとう来るべきもの
その父の留守にいきなり思い出したように荷造りを始めるなぞ、お彩が妙な誤解を抱いたとしても致し方のないことではあった。
現に、母は四畳半の片隅にちんまりと置いてある小さな箪笥から旅に必要と思われる品々を手際よく取り出している。それらを二つに分けてまとめると、お彩をつと振り返った。
「さて、私たちもそろそろ行こうとするかね」
突然の言葉に、一部始終を茫然と眺めていたお彩は息を呑んだ。とうとう来るべきもの