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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】  一
 だが、お彩は母に皆まで言わせず、殆ど叫ぶようにまくしたてた。
「だって、おっかさんがこんな風に急に旅に出るなんて、おかしいじゃない。でもね、おっかさん、落ち着いてもう一度、よおく考えてみてよ。私はおとっつぁんとおっかさんが別れるほど仲が悪いようには一度も見えなかったよ?」
 お絹は幼い娘の話に黙って耳を傾けてはいたが、その鳩が豆鉄砲を喰らったような顔が次第にわずかずつ緩んでゆくのに生憎とお彩は気付かなかった。一気に言い終えたお彩は、母を真っすぐに見上げると挑むような視線を向けた。そうしていると、お彩の生来の気性の烈しさが瞳の奧にほの見える。
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