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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
お絹は屋台を引いて歩く足を速めた。その中(うち)、妙なことに気付いた。お絹が足を速めれば速めるほど、後から忍び寄る足音もまた、速くなるのだ。意識してわざと遅く歩けば、足音も同じように遅くなる。
お絹は愕然とした。
―誰かに追いかけられている。
その得体の知れぬ影の主は判らないが、お絹の後をひそかにつけてきていることだけは判然としている。その事実を知った時、お絹は猛然と走り出した。と、不気味な足音も愕くべき速さで追跡してくる。流石に気丈なお絹も怖くなり、懸命に走った。このままでは追いつかれてしまうと思い、途中で屋台を道に置きっ放しにして、身軽になって走った。
今夜は江戸の外れに店を出していたのが、かえって災いしたようだ。人っ子どころか犬や猫の子一匹すら見かけぬひっそりとした道である。助けを呼んでも無駄であった。
お絹は愕然とした。
―誰かに追いかけられている。
その得体の知れぬ影の主は判らないが、お絹の後をひそかにつけてきていることだけは判然としている。その事実を知った時、お絹は猛然と走り出した。と、不気味な足音も愕くべき速さで追跡してくる。流石に気丈なお絹も怖くなり、懸命に走った。このままでは追いつかれてしまうと思い、途中で屋台を道に置きっ放しにして、身軽になって走った。
今夜は江戸の外れに店を出していたのが、かえって災いしたようだ。人っ子どころか犬や猫の子一匹すら見かけぬひっそりとした道である。助けを呼んでも無駄であった。