この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
母はいつだって、お彩を頭ごなしに怒ったり責めたりはしない。こうやって、子どものお彩の言い分にもちゃんと耳を傾けてくれる。そんな母をお彩は大好きだった。
母への想いは父への思慕とはまた、微妙に違っていた。父はいつも、どんなときだって優しい。お絹は普段は優しいけれど、怒ると怖いし、お彩が悪いときには厳しく躾られた。
でも、伊八は違う。お彩を温かなまなざしで包み込むように見守り、大きな懐に抱いて心からの安堵をくれる。
お彩は父の膝に座って、ほのかに香る父の香りをかぐのが好きだった。若草と樹木の入り混じったような父の匂いを胸一杯に吸い込むと、幸せな気持ちになるくせに、時々、泣きたくなるような切ないような得体の知れぬ感情に支配されることがあった。だが、当時のお彩にはその気持ちがそも何であるのかを認識することは難しかったのだ。
母への想いは父への思慕とはまた、微妙に違っていた。父はいつも、どんなときだって優しい。お絹は普段は優しいけれど、怒ると怖いし、お彩が悪いときには厳しく躾られた。
でも、伊八は違う。お彩を温かなまなざしで包み込むように見守り、大きな懐に抱いて心からの安堵をくれる。
お彩は父の膝に座って、ほのかに香る父の香りをかぐのが好きだった。若草と樹木の入り混じったような父の匂いを胸一杯に吸い込むと、幸せな気持ちになるくせに、時々、泣きたくなるような切ないような得体の知れぬ感情に支配されることがあった。だが、当時のお彩にはその気持ちがそも何であるのかを認識することは難しかったのだ。