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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
「お彩、この眺めをけして忘れちゃあいけないよ。どんなことがあっても、今日のこの綺麗な景色をお前の中に刻みつけておおき」
やわらかに笑んでいるはずの母の表情は、何故かとても真剣だった。お彩は母のその雰囲気とまなざしの真摯さに逆らいがたいものを感じ、思わず頷いていた。実際のところ、その眺めは四つの少女の幼い記憶に深く強く灼きつけられるほどに見事なものであった。
茜色に染まった池の水、薄紅の睡蓮たち、それらを抱(いだ)くように建つ辻堂―、すべてが華やかな美しさに彩られながらも、ひどく淋しげに見えた。
ひと組の母子(おやこ)が暮れゆく初秋の夕景色を眺めている間にも、太陽は今日という一日に終わりを告げ、残照が地平を紅く色づかせ、今にも地の果てに姿を隠そうとしていた。茜色に染まっていた空が次第に菫色に変わりつつある。
やわらかに笑んでいるはずの母の表情は、何故かとても真剣だった。お彩は母のその雰囲気とまなざしの真摯さに逆らいがたいものを感じ、思わず頷いていた。実際のところ、その眺めは四つの少女の幼い記憶に深く強く灼きつけられるほどに見事なものであった。
茜色に染まった池の水、薄紅の睡蓮たち、それらを抱(いだ)くように建つ辻堂―、すべてが華やかな美しさに彩られながらも、ひどく淋しげに見えた。
ひと組の母子(おやこ)が暮れゆく初秋の夕景色を眺めている間にも、太陽は今日という一日に終わりを告げ、残照が地平を紅く色づかせ、今にも地の果てに姿を隠そうとしていた。茜色に染まっていた空が次第に菫色に変わりつつある。