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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
それに従って、二人を取り囲む周囲の景色も淡い宵闇の底に沈み込もうとしていた。お絹はなおも池の方を見つめていたが、やがて想いを振り切るような表情(かお)になった。
それは、幼いお彩ですら、ハッとするほど哀しみに満ちているように見えた。
「さあ、名残は尽きないけれど、行くとするかね」
お絹はお彩の手を引くと再び歩き始めた。
「おっかさん?」
まるで母が自分の知らぬ大人の女性(ひと)のように思え、お彩は不安に怯え、思わず母を呼ばずにはおれなかった。と、お絹がゆるりと振り向く。
「陽がすっかり暮れちまうまでに、お前に見せたいものがあるのさ」
お絹はいつになく有無を言わせぬ様子でお彩の手を強く掴んで歩く。母に掴まれた手首がほんの少しだけ痛かった。
それは、幼いお彩ですら、ハッとするほど哀しみに満ちているように見えた。
「さあ、名残は尽きないけれど、行くとするかね」
お絹はお彩の手を引くと再び歩き始めた。
「おっかさん?」
まるで母が自分の知らぬ大人の女性(ひと)のように思え、お彩は不安に怯え、思わず母を呼ばずにはおれなかった。と、お絹がゆるりと振り向く。
「陽がすっかり暮れちまうまでに、お前に見せたいものがあるのさ」
お絹はいつになく有無を言わせぬ様子でお彩の手を強く掴んで歩く。母に掴まれた手首がほんの少しだけ痛かった。