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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
細い道の脇には色も鮮やかな野菊が群れ固まって咲いている。菊を取り巻く草むらの陰では気の早い秋の虫がしきりにすだいていた。どこか聞く人の心を揺さぶるような切ない音色だ。何を思ったか、母は途中で幾度か立ち止まり、道沿いにひっそりと咲く野菊を何本か手折る。その中の一本をさりげなくお彩に渡してよこした。
母がお彩を連れていったのは、睡蓮の池をぐるりと一回りして辻堂の裏手に回った場所であった。夏の終わりとて今、花は見当たらないが、梅雨時にはさぞかし見事な花を咲かせるに違いないと思えるほど、よく繁った紫陽花の樹が植わっている。その茂みの根許に母が跪く。着物が汚れるのも厭わず地面にぬかずいた母の前に、ひっそりと小さな苔むした石があった。
母がお彩を連れていったのは、睡蓮の池をぐるりと一回りして辻堂の裏手に回った場所であった。夏の終わりとて今、花は見当たらないが、梅雨時にはさぞかし見事な花を咲かせるに違いないと思えるほど、よく繁った紫陽花の樹が植わっている。その茂みの根許に母が跪く。着物が汚れるのも厭わず地面にぬかずいた母の前に、ひっそりと小さな苔むした石があった。