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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
小さな辻堂とその前に美しい睡蓮を浮かべる池、池の上を群れ飛ぶ赤トンボ、そして、苔むした小さな墓石。更に、その墓を見つめる母の哀しげな横顔。
それらの遠い幼い日の記憶が一挙に蘇り、あの苔むした石の下で永久(とわ)の眠りにつく人こそが自分の実の父であったのではないか、とごく自然に思えた。あの日の母の様子から、母が墓の主を憎からず思っていたことは一目瞭然であった。一体、母の身の上に何が起こり、そして、何故、男は死んだのか。また、父伊八はすべてを知りながら、なお、お彩を我が娘として育てることができたのだろう?
この想いは長じたお彩を苦しめ、お彩は葛藤の日々を生きねばならない。お彩がそのあまりにも過酷な真実という枷から解き放たれるのは、これよりずっと後のことになる。
―その人って、おっかさんにとっても大切な人だったの?
それらの遠い幼い日の記憶が一挙に蘇り、あの苔むした石の下で永久(とわ)の眠りにつく人こそが自分の実の父であったのではないか、とごく自然に思えた。あの日の母の様子から、母が墓の主を憎からず思っていたことは一目瞭然であった。一体、母の身の上に何が起こり、そして、何故、男は死んだのか。また、父伊八はすべてを知りながら、なお、お彩を我が娘として育てることができたのだろう?
この想いは長じたお彩を苦しめ、お彩は葛藤の日々を生きねばならない。お彩がそのあまりにも過酷な真実という枷から解き放たれるのは、これよりずっと後のことになる。
―その人って、おっかさんにとっても大切な人だったの?