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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
その時、お彩は小さな墓に向かい一心に祈り続ける母に訊ねたくてならなかった。しかし、そのときの母のひどく哀しげな様子から、それはけして訊いてはならないことだと子ども心にも判った。それに、他ならぬお彩自身が母にそのことを訊くのが怖かったのだ。
それを訊いてしまえば、真実を知ってしまえば、父伊八と母お絹、お彩親子三人の慎ましいけれど、穏やかで幸せな日々が脆くも潰えてしまいそうな気がして。
いかほど、その場所にいたのだろう。母に促されて我に返った時、母は物想い、愁いに沈む女の顔ではなく、既に常の母―優しくて、しっかり者の母に戻っていた。
「すっかり暗くなっちまったね」
お絹はそう言うと、きびきびとした足取りで墓に背を向け歩き出す。
それを訊いてしまえば、真実を知ってしまえば、父伊八と母お絹、お彩親子三人の慎ましいけれど、穏やかで幸せな日々が脆くも潰えてしまいそうな気がして。
いかほど、その場所にいたのだろう。母に促されて我に返った時、母は物想い、愁いに沈む女の顔ではなく、既に常の母―優しくて、しっかり者の母に戻っていた。
「すっかり暗くなっちまったね」
お絹はそう言うと、きびきびとした足取りで墓に背を向け歩き出す。