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凍える月~吉之助の恋~
第16章 第七話 【辻堂】 一
まるで何事もなかったかと思ってしまうほどの母の態度に、どこかお彩は安堵感を憶えながら母の後を追った。その時、偶然胸許に手をやった瞬間、つい今し方、母から手渡されたばかりの鈴に触れた。
帯に結びつけた紅い鈴が触れるとかすかにチリリ・・・と小さな音を立てる。
母はそれに気付いているのかいないのか、既にお彩よりもかなり前を歩いている。お彩はそっと立ち止まり、後ろを振り返った。改めて言われなければ、路傍の石と間違えてしまいそうなほどの小さな小さな石だった。既に小さな石は薄墨を溶き流したような闇の中に紛れ込んで見えなくなろうとしている。
すべてのものが夜の闇の中に沈んでいた。
お彩は少しの間、小さな石を見つめ、やがて踵を返して慌てて母の後を小走りに追った。
帯に結びつけた紅い鈴が触れるとかすかにチリリ・・・と小さな音を立てる。
母はそれに気付いているのかいないのか、既にお彩よりもかなり前を歩いている。お彩はそっと立ち止まり、後ろを振り返った。改めて言われなければ、路傍の石と間違えてしまいそうなほどの小さな小さな石だった。既に小さな石は薄墨を溶き流したような闇の中に紛れ込んで見えなくなろうとしている。
すべてのものが夜の闇の中に沈んでいた。
お彩は少しの間、小さな石を見つめ、やがて踵を返して慌てて母の後を小走りに追った。