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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
 口下手な喜作らしく、訥々と語った。喜作の話によれば、以蔵は喜作と同じ親方の許に住み込み弟子として働いていた。以蔵は喜作より数歳年下ではあったが、共に貧しい百姓の倅であり、似たような境遇での生い立ちからか、気も合った。一人前の飾り職人になるのを夢見ていたのだが、厳しい住み込み弟子としての修業に耐えきれず、以蔵は挫折してしまった。
 十六のある日、突然親方の許を出奔して以来、長らく消息不明になっていた。それが二十五年後に、喜作がさる旗本から公にはできぬ簪の細工を依頼された時、以蔵と再会した。
 老身の旗本は将軍家ご側室となっ娘のために大奥のどの側妾たちよりも立派な簪を所望、その旗本に金を貸していたのが以蔵だった。
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