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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
その頃、〝蠍の以蔵〟といえば、町方(奉行所)さえもうかつには出を出せぬ存在で、以蔵は金のない旗本や御家人に金を貸す金貸しまがいのことまでしていた。その借金のかたに女好きの以蔵は美しい妻女を差し出させ、武家の高貴な女を欲しいままに犯すといったあくどい真似を繰り返していた。そのあまりの情け容赦のなさから〟蠍〝と呼ばれるようになり、〝蠍の以蔵〝と言えば、正体不明の大悪党として江戸っ子なら誰もが知るところだった。
以蔵は借金が払えぬなら、その代わりとして旗本の末娘を妾に寄越せと言った。以蔵の無体な返済の要求に老いた旗本がたまらず喜作に相談し、喜作が旗本から頼まれた簪の他にもう一つ細工し、それを借金のかたに以蔵に渡した。
以蔵は借金が払えぬなら、その代わりとして旗本の末娘を妾に寄越せと言った。以蔵の無体な返済の要求に老いた旗本がたまらず喜作に相談し、喜作が旗本から頼まれた簪の他にもう一つ細工し、それを借金のかたに以蔵に渡した。