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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
「上がんな」
 かなり待たされた末、若い者に案内されたのは、どうやら御堂をぐるりと回った裏庭らしかった。
 相手は既にそこにいた。懐手をして、生え放題の草の中に植わった椿の樹を眺めている。紅と白の二色の花が一つの樹に咲いていた。こちらに背を向けているとは何とも生命知らずというか大胆なものだ。
 伊八を侮っているのだろう。ふいにこのまま後ろから叩き斬ってやりたいほどの憎しみと衝動を伊八は感じた。連れ去られてからのこの半月間、お絹がどれだけ辛い想いをしたかは想像するに余りある。
 だが、喜作の面子を潰すことはできない。ここで吉之助を殺しても、事態は悪い方向へ向かうばかりだ。大切な一の子分を殺されては、今度こそ、以蔵も黙ってはいないだろう。
そうなれば、喜作の身まで危うくなる。
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