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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
吉之助が何か応えるよりも前に、伊八の一撃が彼の右頬に炸裂した。流石に蠍の以蔵の一の手下といわれるだけあり、いきなり殴りつけられても、吉之助は眉一つ動かさなかった。
唇から細く血が糸を引いて滴り落ちるのを無造作に手で拭いながら、ニヤリと口の端を引き上げる。何とも陰惨な微笑だ。なまじ並の女よりは美しいだけに、そんな表情をすると左頬の鋭い傷痕もあいまって、この世のものとも思えぬほど凄みがある。
「いかにも、俺が吉之助だが」
吉之助が酷薄な笑みを浮かべたまま応えるやいなや、伊八が繰り出した匕首がピタリと吉之助の喉許に突きつけられた。
「俺はお前や以蔵を一生許さねえ。だが、お前を殺したりすれば、お絹が哀しむ。あいつはお人好しだからな。たとえ、相手が憎むべき奴であったとしても、自分のために人が死ぬのをけして歓びはしないだろう。あの女の哀しむ顔はこれ以上見たくねえから、お前を殺(や)らねえ」
唇から細く血が糸を引いて滴り落ちるのを無造作に手で拭いながら、ニヤリと口の端を引き上げる。何とも陰惨な微笑だ。なまじ並の女よりは美しいだけに、そんな表情をすると左頬の鋭い傷痕もあいまって、この世のものとも思えぬほど凄みがある。
「いかにも、俺が吉之助だが」
吉之助が酷薄な笑みを浮かべたまま応えるやいなや、伊八が繰り出した匕首がピタリと吉之助の喉許に突きつけられた。
「俺はお前や以蔵を一生許さねえ。だが、お前を殺したりすれば、お絹が哀しむ。あいつはお人好しだからな。たとえ、相手が憎むべき奴であったとしても、自分のために人が死ぬのをけして歓びはしないだろう。あの女の哀しむ顔はこれ以上見たくねえから、お前を殺(や)らねえ」