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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
 吉之助は鼻で嗤った。
「フン、つまらねえ義侠心だな。俺があの女を素直に渡すと思っているのか? 本当に惚れてるなら、俺を殺してから、あの女を奪っていくが良い」
 いかにも他人(ひと)を見下したような物言いに、伊八は淡々と言った。
「以蔵がお絹を解き放つようにと言っているぞ。うちの親方が以蔵に直接掛け合ったらしい」
「親分が女を放免することを承知した? 馬鹿な」
 吉之助の冷たい美貌に愕きの表情がひろがる。その時、表の方から用心棒の若い者が走ってきた。若い者が吉之助の耳許で何か囁くと、吉之助は一瞬眼を見開き、短い沈黙の後、顎をしゃくった。
「親分には承知と伝えろ」
 若い者が頷いて走り去ってゆく。大方、以蔵よりの命が届いたに相違ない
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