この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
吉之助がふいに手を伸ばして、白い椿の花を手折った。
「己れよりもあかの他人のことばかり心配しやがる。世の中、他人を蹴落としてまで自分がのし上がろうとする奴が多いっていうのによ。俺は上辺だけ善人面した奴は大嫌いだが、この女は根っからのお人好しだった。―つくづく変わった女だな」
吉之助は乾いた声で言うと、花をおもむろに懐に入れた。
「お前―、まさか、お絹に本気で惚れたのか?」
伊八が訊ねても、吉之助は、曖昧な笑みを浮かべたにすぎなかった。
その時、「伊八っつぁん!!」と、どこからかお絹の声が聞こえた。あまりに愛しい女のことばかり考えていたゆえの空耳かと慌てて辺りを見回した。
「己れよりもあかの他人のことばかり心配しやがる。世の中、他人を蹴落としてまで自分がのし上がろうとする奴が多いっていうのによ。俺は上辺だけ善人面した奴は大嫌いだが、この女は根っからのお人好しだった。―つくづく変わった女だな」
吉之助は乾いた声で言うと、花をおもむろに懐に入れた。
「お前―、まさか、お絹に本気で惚れたのか?」
伊八が訊ねても、吉之助は、曖昧な笑みを浮かべたにすぎなかった。
その時、「伊八っつぁん!!」と、どこからかお絹の声が聞こえた。あまりに愛しい女のことばかり考えていたゆえの空耳かと慌てて辺りを見回した。