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凍える月~吉之助の恋~
第3章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 三
 何より、あれほどもう一度逢いたいと願い続けた男がすぐ眼の前にいるのだ。お絹は気力を振り絞って、惚れた男の名を呼んだ。
「伊八っつぁん!!」
 もう、とっくに生きる気力など失っていたと思っていたのに、恋しい男をひとめ見た刹那、生きたいと、たとえ嫌われても良いから、もう一度あの男の傍にいて、あの春の陽だまりのような笑顔を見ていたいと思った。
 お絹の声が届いたのか、伊八が振り向いた。
「お絹―!!」
 伊八の声を百年ぶりに聞いたような気がした。
 ほどなく、何度も顔を見かけた下っ端の若い男が現れ、お絹を部屋の外に連れ出した。お絹の三度の食事を運んできていたのは、この若い用心棒であった。
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