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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】 一
甚平店の住人はお絹に勝るとも劣らず皆人の好い連中だ。その日暮らしの人間ばかりが
肩を寄せ合うようにして、ひっそりと暮らしている。お絹の具合が悪いと知れれば、皆心配してくれるだろう。だが、今はお絹にとっては何より他人に秘密を知られるのが怖かった。
お絹は水で一杯になった桶を抱えて立ち上がった。五月の日中は、もうはや初夏を思わせるほどの陽気だ。身体を少し動かしただけで、うっすらと汗ばむ。眩しい陽差しに、お絹は眩暈(めまい)を感じた。ふらつく身体を支えようとした刹那、身体の奧の方から烈しい吐き気がせり上がってきた。まるで大きな塊が喉許につかえているようで、気分が悪くてたまらない。
肩を寄せ合うようにして、ひっそりと暮らしている。お絹の具合が悪いと知れれば、皆心配してくれるだろう。だが、今はお絹にとっては何より他人に秘密を知られるのが怖かった。
お絹は水で一杯になった桶を抱えて立ち上がった。五月の日中は、もうはや初夏を思わせるほどの陽気だ。身体を少し動かしただけで、うっすらと汗ばむ。眩しい陽差しに、お絹は眩暈(めまい)を感じた。ふらつく身体を支えようとした刹那、身体の奧の方から烈しい吐き気がせり上がってきた。まるで大きな塊が喉許につかえているようで、気分が悪くてたまらない。