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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】 一
吐き気が続くあまり、ろくに食事も進まぬ有り様なので、実際には吐く内容物もないのだ。お絹は桶を脇に置いて、しゃがみ込んで咳き込み続けた。あまりに咳いたので、眼に涙がじんわりと滲む。
その時、背後で賑やかな声がした。
「大丈夫かえ、お絹ちゃん」
ようよう振り向くと、隣家の研ぎ屋の彦七の女房おさんが案じ顔で立っていた。おさんは既に二十七、八にはなり、亭主の彦七との間に子どもが四人いる。上のおいちは既に十で、来年はどこぞのお店に奉公にやられるのだとかという話だ。
おさんがお絹の背をそっとさすってくれる。それでもなお吐き気は一向に治まらず、お絹は唾の苦さを口中に感じながら咳き続けた。
その時、背後で賑やかな声がした。
「大丈夫かえ、お絹ちゃん」
ようよう振り向くと、隣家の研ぎ屋の彦七の女房おさんが案じ顔で立っていた。おさんは既に二十七、八にはなり、亭主の彦七との間に子どもが四人いる。上のおいちは既に十で、来年はどこぞのお店に奉公にやられるのだとかという話だ。
おさんがお絹の背をそっとさすってくれる。それでもなお吐き気は一向に治まらず、お絹は唾の苦さを口中に感じながら咳き続けた。