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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
大声を上げようとしたものの、大きな分厚い手で口許をしっかりと押さえ込まれ、声さえ出せない。お絹の口からは、ただ、くぐもった声だけが洩れた。逞しい手は、その持ち主が男であることを告げている。だが、一体、誰がどのような理由で自分を襲おうとするのか、お絹には皆目見当がつかない。
その時、お絹を見下ろす一人の男と眼が合った。
お絹を背後から抱きすくめている人物とは別の男であろう―、冷たい眼をした男だった。腕組みをして、凍るような眼差しをひたとお絹に注いでいる。
端整な顔を月光が余すところなく浮かび上がらせていた。何の感情も窺えぬ美しい面は、静謐というよりは不気味だ。左頬にある鋭い傷痕は、酷たらしく赤くひきつれて、火傷の跡のようにも刀傷のようにも見える。
その時、お絹を見下ろす一人の男と眼が合った。
お絹を背後から抱きすくめている人物とは別の男であろう―、冷たい眼をした男だった。腕組みをして、凍るような眼差しをひたとお絹に注いでいる。
端整な顔を月光が余すところなく浮かび上がらせていた。何の感情も窺えぬ美しい面は、静謐というよりは不気味だ。左頬にある鋭い傷痕は、酷たらしく赤くひきつれて、火傷の跡のようにも刀傷のようにも見える。