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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】 一
いささか過保護すぎるほどの心配のしようだ。お絹は微笑んで頷くと、伊八にもう一度手を振った。
伊八が後ろ髪を引かれるような顔でお絹を見つめ、再び背を向けた。次第に遠ざかる背中を見つめ、お絹は泣きそうになっていた。
伊八が好きだ。穏やかな笑顔や長身の背を少し屈めて歩くときの癖や、伊八に抱きしめられたときの若草のような匂い。伊八のすべてが泣きたくなるほど愛おしい。夫婦(めおと)となって暮らし始めて、伊八への想いはいっそう深まった。お絹は良人の背中が見えなくなるまで、その場に佇んでいた。
それからまもなく、お絹は身を切られるような想いで長屋を出た。お絹が訪ねたのは係りつけの町医者柴田慶安ではなく、産婆のおかねの住まいだった。
伊八が後ろ髪を引かれるような顔でお絹を見つめ、再び背を向けた。次第に遠ざかる背中を見つめ、お絹は泣きそうになっていた。
伊八が好きだ。穏やかな笑顔や長身の背を少し屈めて歩くときの癖や、伊八に抱きしめられたときの若草のような匂い。伊八のすべてが泣きたくなるほど愛おしい。夫婦(めおと)となって暮らし始めて、伊八への想いはいっそう深まった。お絹は良人の背中が見えなくなるまで、その場に佇んでいた。
それからまもなく、お絹は身を切られるような想いで長屋を出た。お絹が訪ねたのは係りつけの町医者柴田慶安ではなく、産婆のおかねの住まいだった。