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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】  一
 おかねは腕が良いと評判の産婆で、甚平店にもおかねが取り上げたという子どもがたくさんいる。研ぎ屋の彦七の女房おさんの四人の子も皆おかねが取り上げた。
 おかねの家は甚平店からもほど近い二階建ての仕舞屋(しもたや)だ。倅夫婦は日本橋の方に住んでいると聞く。お絹が家の前に立った時、中から一人の若い女が出てきた。身なりの良い商家の内儀風の女だ。お絹とさほど歳の変わらぬ女は既に七、八ヶ月にはなるであろう大きな腹を突き出すようして、億劫そうに歩いていった。だが、その表情はまもなく新しい生命を生み出す歓びに幸せそうに輝いている。
 うなだれたお絹は女と入れ替わるように中へ入った。お絹がおかねの住まいから出てきたのは、それから半刻余り後である。お絹は伏し目がちで、その顔色は殆ど血の気がなかった。
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