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凍える月~吉之助の恋~
第4章 第二話 【鈴の音】 一
その日、伊八は暗くなってから家に戻ってきた。長い五月の陽も暮れ、足許から薄い闇が忍び込もうとしている時刻になっていた。
恋女房の待つ我が家の前に立った時、家の中は真っ暗だった。
「お絹、帰ったぜ」
表の腰高障子を開けながら声をかけてみたけれど、何の応(いら)えもない。狭い家の中はしんとして、人の気配は微塵もなかった。
「お絹?」
伊八はなおも呼ばわったが、やはり返答はなかった。伊八は火打ち石で火を熾し、行灯に明かりを入れた。ほどなく明かりが四畳半の室内をぼんやりと照らし出した。
狭いけれど、きちんと片付けられた家の中は、朝と何ら変わりない。が、お絹の姿はどこにも見当たらなかった。
恋女房の待つ我が家の前に立った時、家の中は真っ暗だった。
「お絹、帰ったぜ」
表の腰高障子を開けながら声をかけてみたけれど、何の応(いら)えもない。狭い家の中はしんとして、人の気配は微塵もなかった。
「お絹?」
伊八はなおも呼ばわったが、やはり返答はなかった。伊八は火打ち石で火を熾し、行灯に明かりを入れた。ほどなく明かりが四畳半の室内をぼんやりと照らし出した。
狭いけれど、きちんと片付けられた家の中は、朝と何ら変わりない。が、お絹の姿はどこにも見当たらなかった。