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凍える月~吉之助の恋~
第5章 第二話 【鈴の音】 二
二
数日前から聞こえ始めた蝉の声が妙にかしましい。お絹は片手で団扇をゆっくりと使いながら、空いた方の手を腹部に当てた。かなりせり出した腹を撫でると、腹の子が応えるように元気に動く。
江戸を逃げるように出て、この近在の村に落ち着いて二カ月が経つ。五月初旬のある日、産婆のおかねの許を訪れたお絹は絶望のどん底に落ちた。おかねの許を訪ねるまでは、もしかしたら懐妊は気のせいで、単に月のものが遅れているだけなのでは―と一縷の望みを繋いでいたのだ。
だが、事実はあまりにも残酷だった。お絹は自分を手込めにした男の子どもを身籠もっていたのだ。
数日前から聞こえ始めた蝉の声が妙にかしましい。お絹は片手で団扇をゆっくりと使いながら、空いた方の手を腹部に当てた。かなりせり出した腹を撫でると、腹の子が応えるように元気に動く。
江戸を逃げるように出て、この近在の村に落ち着いて二カ月が経つ。五月初旬のある日、産婆のおかねの許を訪れたお絹は絶望のどん底に落ちた。おかねの許を訪ねるまでは、もしかしたら懐妊は気のせいで、単に月のものが遅れているだけなのでは―と一縷の望みを繋いでいたのだ。
だが、事実はあまりにも残酷だった。お絹は自分を手込めにした男の子どもを身籠もっていたのだ。