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凍える月~吉之助の恋~
第5章 第二話 【鈴の音】   二
 着の身着のままで家を出てきたのだ。が、詳しい事情を話さずとも、よほどの訳ありだと見た家の持ち主がどうせ長らく空き屋になっていたのだからと格安の家賃で貸してくれた。
 仕立物の内職をして僅かな稼ぎで細々と暮らし、読み書きができるので、暇なときには村の子どもたちを集めて手習いの真似事のようなことをした。
 既に七ヶ月を迎えた胎内の児は実によく動く。お絹の腹もひとめでそれと判るほど膨らんだ。何しろこの暑さだ、この頃では、ちょっと身動きするのも難儀なほどになってきた。
 お絹は今、生まれてくる赤子の産着を縫っているところだ。十日に一度村に来る仲買人が完成した仕立物を取りにきて、江戸に持ってゆく。
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