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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
爽やかな風がそよぐ窓は、そこがガラスだと分からないくらい磨かれている。床は、裸足で歩いても足の裏に汚れが付かない。そもそも床が見える生活自体、峰子にとっては久々だった。
「すごい……」
浴室の方から聞こえる洗濯機は、乾燥に入り静かに回っている。その浴室やトイレ、廊下も、キッチンも、まるでモデルルームのように輝いていた。
「キミ、ただ者じゃないわね! 普通の男の子は、ここまで綺麗に出来ないわよ!」
意地悪な姑のごとく隅を指でなぞっても、埃は付かない。真っ赤な頭から不良だとばかり思っていたが、紅男は不良とはかけ離れた掃除の達人だった。
「お前がズボラなだけだろ。それより、もう昼通り越して、三時なんだが」
負にまみれた部屋の片付けには、やはりそれなりの時間が掛かっていた。すっかり昼食を食べ損ねていたが、動いただけあって体は空腹を訴えていた。
「あ、ごめんごめん。何か――ピザでも取ろっか」
冷蔵庫に入っているのは、酒と、その肴だけである。普段は外食か弁当の峰子の部屋に、すぐつまめる食べ物はお菓子以外何もなかった。