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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
「いや、一度帰る。夕方には、外せない用がある」
「え!? もう帰るの、っていうか帰りたくないから来たんじゃないの!?」
矛盾した言葉に峰子が驚けば、紅男は一段と厳しく峰子を睨む。
「一度って言っただろうが。まさかお前、人にこれだけ掃除させておきながら、何もなく帰すつもりじゃないだろうな」
「あはは、そりゃそうよねー……」
どうやら戻ってくるつもりではいるようだが、帰りたくないのに帰る理由は全く分からない。しかし紅男の目力を前に、それを訊ねる事は出来なかった。
「じゃあ、戻るまでに何か食べるもの買っておくからさ、行ってらっしゃい」
「いや……食い物はいらない。どうせお前、出来合い物しか出せないだろ」
「う……それは、ごもっとも」
「掃除のついでだ、何か作って持ってくる」
「あ、ありがとー……って、えっ!?」
峰子が目を丸くして驚いても、構わず紅男は部屋を出て行ってしまう。残された峰子は、しばらく呆けたまま紅男の言葉を反芻していた。
(作ってくるって……作る? 掃除の手際の良さといい、あの子何者なの?)