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ただ、あなただけに愛を
第1章 ライン
「え、掃除……? けどほら、面倒くさくない……」
「まずはゴミ袋! 早く持ってこい!」
「は、はいぃっ!」
命令口調に、思わず峰子は頷いてしまう。紅男の大きい態度が恐ろしい訳ではない。厳しい言葉が、峰子を過去に戻したのだ。かつて家庭教師として峰子を指導した、蒼一朗とのひとときに。
(蒼ちゃんも、怒るとあんなだったなぁ……怒られるのめんどくさいから、勉強頑張ったんだっけ)
だいぶ昔に購入し、使わずにいたゴミ袋を手に取りながら、峰子はしみじみと過去を思い返す。だがあまり浸っていては、また怒鳴り声が響いてくるのは明らか。峰子は首を振り過去を払うと、紅男の待つ玄関へ戻った。
「よし、お前は落ちてる服を片っ端から全部洗濯機にぶち込んでいけ。まずはでかいゴミから処理するぞ」
「あぁ、うん……」
逆ナンした初対面の少年と共に、部屋の掃除。訳の分からない展開に、峰子は脱力してしまう。蒼一朗も、今まで峰子が遊びで連れ込んだ男も、誰一人、部屋を見て掃除しようなどは言わなかった。このふてぶてしい紅男と過ごす時の先に何があるのか。峰子が興味をそそられたのも、事実だった。