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壊してほしい
第2章 願望
ベッドに横になる2人。



交わりのあとの気怠い心地よさ。


『壊してって。
本当にいいの?』
はー………と息をついて話す氷月。




雫石の抽象的な言葉。けど、言っていることは分かった。
雫石は違う人間になりたいんだろう。
本当ならば。
そのくらい傷ついたに違いない。
自分を消してしまいたいほど。


だけど、
記憶を塗り替えることも違う誰かになることも、
不可能だ。




『俺が染めていいわけ』
腕枕をしている雫石の頭を撫でた。


雫石は『うん。
夢みたいなこと言ってるよね?
でも、もうイヤなの。
あんな…………おじさんに脚開いて、生活させてもらうのも。
帰れない家に帰ろうとするのも、
疲れちゃった…………』



雫石の声は、
投げやりでもなく力強くもなく。
淡々としている。






氷月は、
初め介抱したときに分からなかった雫石の芯の強さを知った気がした。




良い悪いじゃなくて。

この子はただフラフラしているわけじゃなく、
自分をよく知ってる。



何でもいいから逃げたい、ってのと違う。



逃げられないことをちゃんと理解している。



その上で、
「ここに居たい」のなら__________。










『……………雫石、
ここに居たい?』
氷月は訊ねた。



暗い部屋でベッドサイドの灯りだけが2人を照らす。

互いに温もりを与え合うようにくっついている。








『居たい。
できれば、ずっと。
氷月と…………いっしょがいい』
雫石の真剣な声が、
暗がりに吸い込まれてゆく。


氷月は雫石をぎゅっと抱きしめた…。




『あ』
雫石が急に声を挙げた。
『な、なに?』
氷月は思わず力を緩める。

雫石の顔が斜めに上がる。

氷月の顔を見て、
『分かった…………………
おひさまの匂いだ』と微笑んだ。
『氷月、おひさまの匂いがする…………』





そう囁くと、雫石は寝息を立て始めた……………………………………………………
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