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無意味なPKを持つJKの話
第8章 カラダとココロのキョリ
「それだけ?」

心の中を探るような小川の目から、視線が外せない。

押し倒され重なったまま、固まったように2人微動だにできずにいた。
どちらかが動いたら始まってしまうようで、動き出せない。

冗談のつもりだったのに、明子が動き出したら、その流れでシテしまうのだろうか。
小川からは動き出しそうにない。

何を考えているのか、その静かな表情からは全く読み取れない。

呼吸が出来ず、鼓動が苦しいほどの速さになってゆくのがわかる。


「和樹ー!スイカ食べる〜??」

ぐるっとした階段の下から、小川の母親の声がした。

膠着状態の2人が、その一声で我に返った。

何やってるんだ。

一気に恥ずかしくなってくる。


「わ、私、もらってくる」

階段を急いで降りる。


台所と思われるガラスの引き戸が僅かに開いていて、そこを覗くと、テーブルの上で小川の母親がおっきなスイカをに包丁を差し込んでいた。

「あら、和樹は?」

「あ、...勉強してて」

「そう」

苦し紛れの言い訳も、大して気にした様子はなく、ザグザグっとスイカを切っている。

「はい。どーぞ。井戸水で冷やしてたから、おいしいわよー」

大きな皿に大きくカットされたスイカが乗っていて、受け取ると手にズシンと重い。

「ありがとうございます。いただきます」

なんだか気まずくて、急いで踵を返す。

「ねえ」

「は、はい!」

残ったスイカを切りながら、話しかけてくる。

「あの子、変なことしてない?」

「変、なこと?」

さっきの音が聞こえたのだろうか、スイカを持つ手が震える。

変なことを仕掛けたのは明子のほうだ。

「友だちと聞いてたけど、こんなカワイイ子だと思わなくて。あの子が変なことするようだったら、2階から叫んでくれたらいいからね」

夜勤明けで、スイカを食べたら寝るつもりにしているらしい。
いつもは耳栓して眠るのだが、今日はしないでおく。
だから、何かされそうになったら。

「私、そういうんじゃないんで」

「和樹が誰かを家に連れてくるなんて、あれ以来なかったら」

“あれ”とは、ユイの事故のことだろうか。

「しかも、女の子なんてね。もう吹っ切れたってことかしらね?」

吹っ切れていたら、明子のことなんか気にもとめなかった筈だ。
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