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another storys
第8章 筒井筒【陽炎】
大店であれば、動く金の額も大きく、月に幾分かの使途不明金が出るのは常のこと。
帳簿が合わずとも些少ならば目を瞑ろう、それに手間を割く事よりも、より多くの利益を生む術を考えよう、というのが大方の考えだった。

もちろん市八とてその考えが判らぬではない。
だが、それを良いことに不正を働こうとする者が出る事があり、市八にはそれが許せなかった。

例えそれが自分よりも長く勤める者であろうとも不正は不正 、と問い詰めるし、何か事情があるのだとしても、店の金に手を着けるのは順番が違う、事情があるならあるで、主に相談して給金の前借りなり何なりすれば良いのだ、と正論で言い負かした。

市八は合わぬ数字を見つけると、どんな些額であろうとも答が出るまで飯も食わない。
だが、それをされると周りもそれを放って己だけが飯を食う、ということができず、上辺だけでも手伝う羽目になる。
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