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第8章 筒井筒【陽炎】
「お帰り、市八。」

帰った市八を迎えてくれたのは母。
中には父も居た。

母の顔には火傷の痕があり、幼い頃は他人にそれをからかわれては嫌な心持ちになったものだった。

当の母も父もそれを気にしていないので、気にする方がおかしいのだと己に言い聞かせて育った。

市八の身近に、市八と、同じ事を思う娘がいた。

萬屋の鷺の娘、サヨだ。
サヨは、市八より三つ下で。サヨの母、鷺の妻であるおばさんは、顔に痘痕がある。真っ赤な花が咲いたような痣は、遠目にも目立つし、見て痛々しい。
だが、痛くはない、というのが子供の頃は不思議でならなかった。
白粉を塗っても全部は隠れない。
隠すには相当厚く塗らねばならず、仕事が料理屋の為、火の側で汗をかけば白粉など流れてしまうと、平素は隠していないことが多かった。
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